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「茨城城郭サミット」開催!茨城初の中世城郭の総合調査の成果を報告
ー調査の委員長を務めた高橋修教授に聞く

 来る2月10日(土)、「茨城城郭サミットー県央?県西編ー」という気になるイベントが開催されます。2018年度から5年間行われた「茨城県中世城館跡総合調査」では、茨城県域には中世の城館跡が1,135か所も分布していることがわかったそうです。その成果報告の場でもあり、第18回茨城大学人文社会科学部地域史シンポジウム及び第9回笠間歴史フォーラムとして開催される本イベントについて、総合調査の委員長を務め、当日はパネルディスカッションのコーディネーターも担当する高橋 修 人文社会科学部教授に話を聞きました。

ー茨城県教育委員会が主体となって2018年度から始まった「茨城県中世城館跡総合調査」。どういう調査プロジェクトだったのしょうか?
高橋「茨城県としては初めて実施した、県域の中世城郭遺跡の悉皆調査です。『日本城郭大系』という研究書の茨城?栃木?群馬版が1979年に出版されていて、そこでは城郭は529か所となっていたのが、今回の調査で倍以上の1,135か所まで確認できました。今回の調査で新たに図化したのも673か所に上ります」

ー大きな成果ですね。中世城郭の全数調査は他の都道府県でも行われているのでしょうか。
高橋「実は茨城は遅れていて、全国47都道府県中40番台のスタートだったんです。遅くなった理由のひとつには、これまで茨城県内においては水戸黄門、水戸徳川家など、江戸時代のインパクトが強いために、中世史への関心が埋もれていたという事情があったのかもしれません」

ーその認識がだんだん変わってきたということですか?
高橋「我々もたとえば、第3回の地域史シンポジウムで『北関東のもののふたち』という中世の武士団をテーマにしたイベントを企画したのですが、それで人が集まるとは正直思っていなかったんですよ。ところが蓋を開けてみたら、120人収容の会場に300人も聴衆が詰めかけました。
考えてみれば、茨城は戦国大名に成長する佐竹氏がいたり、あるいは鹿行の南方三十三館というような小さい武士団がいたり、『おらが村』を象徴する『殿様』がいて、先祖が古くからこの地域で暮らしてきた方々は、そうした武家とどこかで何らかの関係をもっている。そうでなくても、自分がいま暮らしている土地に、武士団の痕跡が必ず何か残されている。だから中世の武士の時代やお城への強い思いは潜在的にあって、それが全国の戦国ブームやお城ブームに押されるようにして可視化されてきたという面はあると思います」

笠間城跡天守曲輪石垣(被災前) 笠間城跡天守曲輪石垣(被災前)

ー茨城大学の講堂で中世城郭のシンポジウムを開いたときの本当に多くの方に参加いただきました。中世史に関わる市民の層が厚くなってきたということですね。
高橋「シンポジウムでは茨城城郭研究会のみなさんに登壇してもらいましたが、城郭をおもしろいと思っていた市民の中からもお城の研究者が現れてきて、研究発表できる実力を持つようになっていました。さらに大学でも、彼らを含めた地域の研究者とともに学んでいく中で、若い研究者が育っていきました。つまり、ただお城がたくさんあり、市民の関心が強いというだけでなく、それに押されるように、研究者のボリュームが厚くなり、悉皆調査実施の見通しをもてるようになったことが行政を動かしたといえると思います」

ーとはいえ悉皆調査は大変です。どのような仕組みで進めていったのでしょうか。
高橋「悉皆調査というのは、おもしろい城だけをつまみ食いするのではなく地味な小さいお城もすべて、所在地と縄張り(構造)を調べていくのです。私が委員長を引き受けるにあたっては、分野を超えて、大学などの歴史研究者と市町村に多い考古学研究者に、民間の城郭史研究者も加えて、総力を結集した形で、30人を越える規模の委員会を組織することを認めてもらいました。その上で、県北、県南などの地区部会を作り、それぞれの地域で調査を進めてもらいました。
発掘による考古学的な調査がされれば客観的なデータが得られます。しかしながら1,135か所の城郭を全て発掘するわけにはいきません。城郭史研究者が歩測で作った縄張図は城郭の分布を確認する上でとても重要です。そこに我々歴史学者は古文書からわかる事実を味付けしていく。そうした協力関係があってこその調査でしたし、その過程を通じて地域のおける歴史研究の力が確実に底上げされたと思っています」

ー1,135の中世城館跡の調査をした結果、茨城県域の城郭の特徴とは?
高橋「実はそこが難しいところです。以前の城郭研究では佐竹系や北条系というように武士団ごとの特徴があるとされていましたが、今ではそういうのはあまりないということが分かってきており、むしろそれぞれのお城は各地域の地形環境や技術を活かして築かれている。たとえば県南?鹿行は内海世界が広がっているから港を押さえる場所が大事だし、山が深くなる県北だと本格的な山城が山の上につくられますよね。こうした特徴を点ではなく面でどう捉えるかということ自体が大きな課題ですが、そのためにも一定の範囲にどういうお城が分布しているかをまずは把握しなければならなかったのです」

ー今回の悉皆調査でようやくスタート地点に立った、と。
高橋「やっと全体像を議論できるようになったんです。今まではおもしろいお城をひとつずつとりあげて議論するのに留まっていたのを、せめて郡のような範囲でどう捉えることができるのか。グルーピングも大事になりますよね。今回のシンポジウムでも、たとえば藤井達也さんの報告は、中世江戸氏時代の水戸城と、それを取り囲んで分布する拠点城郭との関係を考察するものです。全体のディスカッションはなかなか難しいですが、広い範囲で見たときの城郭の特徴に少しでも迫れればと思っています」

シンポジウムの参加者に進呈される「茨城県中世城館地図--県央?県西編―」からシンポジウムの参加者に進呈される「茨城県中世城館地図ー県央?県西編―」から

ー今後のサミットの計画は?
高橋「来年の同時期には『茨城城郭サミットー県北?県南?鹿行編ー』を常陸大宮市で開催予定です。今回のシンポジウムに参加いただいたみなさんには、県内の地図に城跡の場所をプロットした『茨城県中世城館地図ー県央?県西編ー』という31ページの冊子をお配りしますが、来年のシンポジウムで配る県北?県南?鹿行編はさらに分厚いものになるかと思います」

第18回 茨城大学人文社会科学部地域史シンポジウム/第9回笠間歴史フォーラム
茨城城郭サミットー県央?県西編ー

  • 日時:2024年2月10日(土)12:30~17:00(12:00開場)
  • 会場:笠間市立笠間公民館 大ホール
  • 入場無料、定員500名

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