3/22「イバダイ学」シンポ ここが聞きどころ後篇
12人の茨大教員が登壇する熱い分科会に注目!
3月22日?土曜日、365体育官网_365体育备用-【官方授权牌照】において、「みんなの〈イバダイ学〉シンポジウム」が開催されます。テーマはずばり、「イバダイの価値を問う」!ゲストの隠岐さや香さんの基調講演や12人の茨大教員が登壇する分科会の見どころ(聞きどころ?)を、茨城大学広報?アウトリーチ支援室のメンバーが独断と偏見でご紹介します。【後篇】
>>前篇「科学史家?隠岐さや香さんの基調講演と6年半ぶり開催の理由」
>>「みんなの〈イバダイ学〉シンポジウム『イバダイの価値を問う』」詳細&申込はこちら
12人の茨大教員が登壇する分科会が楽しい
前篇では「イバダイ学とは何?」ということと、6年半ぶりの開催の背景、そしてゲストである東京大学大学院教授の科学史家?隠岐さや香さんの基調講演の聞きどころをご紹介しました。
隠岐さんのお話も楽しみなのですが、「イバダイの価値を問う」という、茨城大学の当事者の議論こそがこのシンポジウムのメインイベントです。今回は「教育」「研究」「地域の価値」という3つの切り口ごとに分科会を設定しました。それぞれの分科会の登壇者と注目ポイントをご紹介しましょう。
分科会①大学教育は何をめざすのかー「文系」「理系」を越えるビジョン
分科会①の切り口は「教育」。教育改革担当の西川陽子副学長がモデレーターを務めます。
大学での学修といえば、それぞれの学部や学科の分野に応じた専門的な学びや自由な学問の雰囲気を思い浮かべるかもしれませんが、最近は教育の「質」ということが取り沙汰されるようになりました。学部や学科の区分は別として、茨城大学として共通してどんなことを学ぶべきかということを大学全体で議論をし、その「質」を保証するような取組みが求められているのです。
また、日本には各都道府県に国立大学があります。それは各地域において人びとに高等教育の機会を提供し、それを各地の文化や産業の基盤づくりにつなげていこうという日本社会なりのシステムといえます。一方戦後80年という歴史の中で、都市―地方のあり方も大きく変わりつつあります。そうした中、地方国立大学である茨城大学がこれから誰をどう育てていくのかは、大学自身が考えることはもちろんですが、地域の未来を共有するステークホルダーのみなさんとこそ、もっと議論すべきことと思います。
この分科会①はそんな問題意識から、登壇者をセレクトしました。
人文社会科学部/人文社会科学野の松尾卓磨講師は、去年の春に茨城大学に赴任したばかりの若手の教員です。専門は人文地理学で、最近の研究のキーワードは「ジェントリフィケーション(gentrification)」。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、「ジェントリフィケーション」とは、都市産業の発展や開発によって都市の中心部における家賃が大きく上昇し、収入の中間層以下が都市に住めなくなってしまうという現象です。今、世界中の都市で見られています。松尾講師はそうした現象に注目してさまざまな地域でフィールド調査を行いつつ、多様な人びとの都市地域での抵抗的な実践にも光を当てた研究をしています。その視点から、地方国立大学の教育の役割はどのようなものとして見えているのでしょうか。自身の教育実践の試行も踏まえた話もありそうです。
理学部/基礎自然科学野の横山淳教授は、理学部で長年教鞭をとるベテラン研究者。専門は量子物性です。工学部は「ものづくり」の学部で、基本的に実社会に直接役立つ技術について学ぶのに対し、理学部が追い求めるのは自然の原理であり、まさに「科学」「サイエンス」。だとすれば、将来は研究者にでもならない限り理学部で学んだことが役に立たないのかといえば、もちろんそうではありません。横山教授はむしろ、どこへ行っても役立つはずの科学知を学生たちが身に付けられるよう、強く意識して学部教育に取り組んできたと語っています。また、学生一人ひとりの特性にも注目しながら、東京大学や海外の大学といった他の大学との交流機会も意識的につくり、科学を学んだ者としての自信につなげているとのこと。当日はそのビジョンと実践を語ってもらいます。
工学部および昨年4月にできた地域未来共創学環で授業を担当している応用理工学野の梅津信幸准教授の専門は、知覚情報処理。アウトリーチ活動にも積極的で、社会教育施設での定期的なワークショップ企画などを手がけています。そこでは学生たちが自ら作ったプログラムを子どもたちにプレイしてもらうのですが、そうした体験から学べることがかなり多いようです。さらに地域未来共創学環といえば、企業や自治体で数か月にわたって有給で就業体験を行い、現場の課題に向き合う「コーオプ教育」が特徴です。これはとても意義のある経験ですが、企業等と一緒にプログラムを作り、学生についてもミスマッチを起こさないよう丁寧にコーディネートすることが大事です。さて、学生一人あたりの教育コストはどのぐらいであるべきか。これこそまさに「質」を考える重要な視点となりそうです。
去年4月に開設した地域未来共創学環の第一期生たち
分科会②「よい研究」とは何か―社会的価値と学問の自由
分科会②は、「研究」からのアプローチ。研究?産学官連携担当で、企業勤務の経験ももつ倉本繁副学長がモデレーターです。
インパクトを与える学術論文数などの指標で、日本の研究の国際的地位が低下していると言われています。国レベルでも大学レベルでも、この状況を打破すべくさまざまな取組みが行われていますが、基盤的な研究資金の過度な「選択と集中」による歪み、外部資金に依存することによる学問の自由の低減など、課題は山積しています。ここで一旦立ち止まって、「よい研究」とは何かというある種哲学的な問いにも向き合いながら持続可能なあり方を考えてみようというのが、この分科会の目的です。
ここでも若手、中堅、ベテランという3人の登壇者を選びました。
若手の農学部/応用生物学野の迫田翠助教の専門は「環境農学」。迫田助教らは、KH32Cというバクテリアをイネの種子に接種して栽培すると、水田の土壌が、温室効果ガスのメタンの生成が減り消費が増えるような環境に変化することを突きとめました。その後、この論文が、グローバル規模のある民間財団の目に留まり、昨年研究資金を受けることに。突然のようにして大きなプロジェクトに取り組むことになった迫田助教からは、今の「研究」の世界のダイナミズムがどのように見えているでしょうか。
工学部/応用理工学野の長(おさ)真啓准教授の専門は、医用生体工学。特に子ども用の人工心臓の研究開発に取り組んでいます。人工心臓の研究といえば、昨年公開の映画『ディア?ファミリー』でも話題に。医学部?大学病院のない茨城大学において、生命と機械をつなぐ研究と普及啓発の取組みの日々から、研究の社会実装のあり方やそのための文理融合的なアプローチの可能性について、語ってもらいます。
ラボで実験に取り組む長准教授
人文社会科学部/人文社会科学野の西山國雄教授は、言語学が専門。世界中のさまざまな言語における語彙(ボキャブラリー)に注目しながら、単語ひとつひとつは決して孤立しておらず、語彙は「変幻自在さ」と「社交性」をもったものであるということを記した、その名も『じっとしていない語彙』というユニークな著書も出しています。「私の分野はどこでも研究できるんです」と語る西山教授にとって、地方国立大学である茨城大学で研究に取り組むことの意義とは?とても気になります。
前篇で紹介したとおり、基調講演を務める隠岐さや香さんは、「文理は融合しなくてもいい」「わかりあえなさを可視化して、差異を前提とした議論が大事」と述べています。この分科会自体まさにそれが実践される場となるかもしれません。
分科会③イバダイの実践と育まれた地域の価値
分科会③の切り口は、「地域の価値」です。大学の教育?研究の価値を探ることを大切ですが、大学がこの地域にあることが、地域そのものにどんな価値をもたらしてきたか、その歴史を検証することも重要です。さらにその価値をより高めているような実践を共有しながら、その取組みを地方国立大学として組織化していくことが、これからもっと求められていくはずです。
広報?アウトリーチ支援室の青栁直子室長をモデレーターとするこの分科会では、個人としての強い使命感ももちながらそうした実践に真摯に取り組んできた3人の教員に登壇してもらいます。
人文社会科学部/人文社会科学野の高橋修教授は、現在は社会連携センター長という肩書きももっていますが、日本中世史を専門とする大学教員として、これまで長年にわたって歴史の専門職を育て、地域に輩出してきました。そしてその卒業生たちのネットワークを活かしながら、文化財の保護?活用を含む地域市民が参加する歴史実践を地道に積み上げてきました。たとえば、災害などによって傷んだり散逸の危機にあったりする歴史資料を救い出し、学生や市民ボランティアとともに修復?調査する「史料レスキュー」、史料を虫干しする「曝涼」をイベント化することで、地域の史料に市民が触れる機会を広げた「集中曝涼」などの活動が挙げられます。その根底には、「歴史の教育は大学内だけではできない」という気付きがあるようです。
茨城大学といえば、地域のみなさんにとっては今でも「教員養成」というイメージが強いようです。教育学部/教育学野の生越達教授は、長い期間にわたって茨大で教員養成に携わり、また多くの学校でスクールカウンセラーなども務めてきました。学部長も経験しています。多くの茨大卒業生たちが茨城県内で学校教員となっており、それはひとつのコミュニティも成していますが、他方でそれは閉鎖性も生みやすいと、生越教授は指摘します。その意味で大学は、学生たちだけでなく学校で働いている現役教師にとっても気軽に365体育官网_365体育备用-【官方授权牌照】できる場となり、その関係が「開いていく」ことにつながれば――という思いをもっているようです。生越教授の茨大での長年の実践を振り返りつつ、地域の教育のために今こそ必要なことを展望します。
農学部/応用生物学野の小針大助准教授が積極的に連携しているのが、「動物園」です。昨年、日立市かみね動物園、千葉市動物公園、茨城大学の三者で「Zoo Science Journal」という新たな学術紀要を発行しました。その背景には、両動物園の飼育員や獣医の方たちと定期的に情報交換をしながら、動物学を学ぶ学生たちのフィールドとして動物園を活用させていただいたり、動物園側で飼育員や獣医が悩んでいることをサポートしたりしてきた、地道な取組みの積み重ねがあります。そこには「動物園にとってのかかりつけの研究機関でありたい」という小針准教授の思いがありました。
小針准教授、日立市かみね動物園にて
この三者に共通するのは、地域の文化を育てることに対する、国立大学の教員としての強い使命感と真摯な実践、そして「学び」を空間的にも時間的にも、大学内に閉じさせないという姿勢です。こうした取組みがあることを、ぜひ多くの地域の方に知っていただくとともに、教員個人の属人性で終わらない、持続可能なあり方を一緒に考えていければと思います。
「イバダイ学」を楽しんでください
いかがでしょうか。どの分科会もおもしろそうで、ひとつだけ選ぶというのは難しいかもしれません。いずれも意義ある議論になりそうですので、後日記録集を出すことも検討しています。
分科会のあとの第三部では、基調講演者の隠岐さや香さんと、3分科会のモデレーター、そして学術担当の金野満理事、企画?評価等担当の佐川泰弘理事が、パネルディスカッションを展開します。それを受けての最後の太田寛行学長による「総括」まで、長時間ではありますがぜひたっぷりとご堪能ください!
多くの皆様のご参加をお待ちしています。
(文/茨城大学広報?アウトリーチ支援室 山崎一希)