令和6年度卒業式?学位記伝達式を挙行―水戸市民会館で初の開催 2080人に学位記や修了証を授与
3月25日(火)、茨城大学の令和6年度卒業式?学位記伝達式を挙行し、2,080人に学位記や修了証を授与しました。
卒業式は初めて水戸市民会館グロービスホール(大ホール)にて開催されました。



令和6年度卒業式 学長告辞
本日、卒業式?修了式を迎えた2,080名の皆さん、卒業?修了おめでとうございます。
皆さんがこれまで積み重ねてきた努力に、心から敬意を表します。また、皆さんの学業や研究活動を支えてこられたご家族や友人の方々にも、心からの感謝とお祝いを申し上げます。
皆さんの多くが大学生活をスタートさせた4年前、世界は365体育官网_365体育备用-【官方授权牌照】感染症のパンデミックという未曾有の事態に直面していました。社会全体が困難を乗り越えるために助け合う一方で、戦争や対立のように、人類が未だ克服できない問題も浮き彫りになりました。
助け合いと戦争というジレンマを抱え続ける現代社会は、今後どのように変化していくのでしょうか?
その問いに向き合いながら、私がこの数年で読んだ著作からの気づきや考えたことを、皆さんに紹介します。
まず、社会生物学者のエドワード?ウィルソンの言葉、「われわれは、石器時代からの感情と、中世からの社会システムと、神のごときテクノロジーをもつ」について考えてみましょう。この言葉の意味を、教育者の近内悠太は、「私たちの『身体と心』『制度やシステム』『テクノロジー』がそれぞれ異なる時間軸で進化しており、それぞれのタイムスパンがあまりにも"チグハグ"である」と説明しました。
進化生物学の概念である「進化的適応環境(Environment of Evolutionary Adaptation、EEA)」によれば、私たちの感情は少なく見積もっても1万年前までの狩猟採集時代に適応したものです。しかし、現代社会はテクノロジーが著しく進展していますが、ヒトの感情は狩猟採集時代と大きく変わらないままということです。この"チグハグ"こそが、現代社会の課題を生む要因の一つになっています。
たとえば、現代人の肥満や糖尿病が挙げられます。狩猟採集時代には、食べ物が入手できないときに備え、得られた食料を過剰に摂取し、脂肪として蓄えるように適応進化しました。しかし、現代になって、食料が豊富な社会では、この進化的適応が逆に健康問題の一因となってしまっています。
もう一つ、国際政治学者のブライアン?クラースの著作にも、こうした"チグハグ"の例が示されています。
「その大統領は、まるで時計で計ったかのように定期的に、上半身裸で乗馬している姿や、柔道の稽古をしているところや、戦士のように力を誇示している写真を公表する。このようなシグナルが効果を発揮しうるのは、私たちの石器時代の脳が、リーダーシップの資質を身体的な大きさと結びつけて捉えている面が依然としてあるからだ。」
「その大統領」とは、本では実名ですが、皆さんは想像がつくでしょう。石器時代と変わらない脳が、現代においてもおかしな行動を引き起こしている例と言えます。
では、進化的適応環境で適応進化したヒトの特性は、すべて現代社会にとってマイナスなものなのでしょうか?
私は、そうではないと思います。なぜなら、私たちの脳は「助け合うこと」の価値も理解しているからです。それが、「利他性」、すなわち「自分を犠牲にして他人に利益を与えること。他人の幸福を願うこと」です。だからこそ、国連は「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を掲げることができたのです。
しかし、私たちは本能的にグループや集団を作るため、「利他性」が限定される傾向があり、「偏狭な利他性」が生じてしまいます。すなわち自分の属する集団には利他的にふるまうが、他の集団とは関わりを持たず、さらには対立するという特性です。この「偏狭な利他性」が、集団間の対立や争いの要因となっているのではないか、という指摘もあります。
それでも、私たちは、助け合いを意識し、集団を超えて学び合い、一緒に行動することで、この「偏狭な利他性」を乗り越え、「普遍的な利他性」へとシフトすることが可能です。皆さんは、茨城大学での学びを通じて、すでに「普遍的な利他性」へ向かう力を身につけています。本学のディプロマ?ポリシーの第一項目である「世界の俯瞰的理解」は、多様な文化や価値観を知り、他者との共感を深めるための第一歩です。
そして、皆さんの中には、iOP(Internship Off-campus Program)の活動に取り組んだ方もいると思います。iOPを通じて、国内外の地域の人々と交流し、語り合い、課題を共有し、その解決策を考え、助け合う経験をしたことでしょう。
それらすべてが、「偏狭な利他性」を乗り越える具体的な行動だったはずです。
これからの未来は、皆さん一人ひとりの選択によって形作られます。どうか、世界の変化を俯瞰し、多様な価値観を受け入れ、よりよい社会の実現に向けて力を発揮してください。
皆さんの挑戦が、未来を創ります。
以上で、茨城大学、令和6年度卒業式?修了式の告辞といたします。
本日は誠におめでとうございます。
令和7年3月25日
茨城大学長 太田寛行

日時:令和7年3月25日(火)10:00~
会場:水戸市民会館グロービスホール
対象:全学部?全研究科?専攻科


