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常陽銀行 市場金融部×茨城大学 鈴木智也研究室の共同研究で成果
―AIを活用した資産運用業務支援のシステムを実装 「期待を上回るパフォーマンス」

発表する学生

 茨城大学大学院理工学研究科の鈴木智也研究室と常陽銀行市場金融部は、202112月より、共同研究を進めてきました。研究課題は、AI及び機械学習を活用した有価証券運用力の高度化。両者は毎月のようにディスカッションを重ね、株式の運用戦略をAIが提案する業務支援システムの開発につながりました。1217日にはその成果報告を兼ねた報道関係者向けの発表会が実施されました。

 この共同研究は、常陽銀行を子会社とするめぶきフィナンシャルグループ主催の「めぶきビジネスアワード」で、鈴木教授が「大学イノベーション賞」を受賞したことをきっかけにスタートしました。

 鈴木教授によれば、AIを使った資産運用は2017年頃から日本国内でもじわりと登場してきたものの「ほとんどが期待に見合う成果を得られていない」とのこと。その要因として、「公募投資に求められる説明責任と、他方でAIを使って人間の認知能力を超えたいという、相反するニーズの存在がある」と鈴木教授は指摘します。そこで両者は、一般顧客を対象とする公募ではなく、機関投資家の私募におけるAI運用の導入可能性を探ってきました。

 目指したのは、銀行の担当者がAI運用を行う上でのサポートシステムの開発。「AIの利点を最大化しつつ、説明責任も果たすため、AIが何を考えているのかというロジックを可視化する」。そんな目標を打ち立て、大学院生たちを中心にミーティングや勉強会を重ね、開発を進めてきました。

 約3年の期間をかけ、個別株、業種別株、国別株という3種類の株式の運用においてAIが戦略を提案するシステムを実現。汎用性の高いPythonを使ったもので、既に市場金融部のディーリングルームの一部のPCに実装されて利用されています。鈴木教授は、「行員のもつ経験知と、条件ごとの細かな戦略案とを組み合わせ、納得しながら投資判断ができるのが、このシステムの利点です」と強調しました。

DSC_9973.JPG 共同研究の成果を説明する鈴木教授

 発表会では、国別株価の割高?割安判定のシステム開発を担当した大学院博士前期課程2年(M2)の澤畑英介さんが、実際のデモ画面を見せながら概要を説明しました。ユーザーが学習期間を決定すると、AIがシミュレーションをして売買戦略を提案。この際、AIの「頭の中」も色分けして可視化されるため、ユーザーとなる行員はそれらの情報をもとに、ルールを選択、調整できます。その上でデモ運用という形で検証をすることで、さらに情報が得られていきます。

 常陽銀行市場金融部の現場でもメリットを実感しているようです。同部の飯島寛志部長は、このシステムのシグナル?サインを参考にした取引数はまだ多くないものの、「年単位換算で20%を超える好調な利益を計上しており、期待を上回るパフォーマンスを上げています」と説明しました。
 また、実際に利用している同部主任調査役の川又仁通さんも、「われわれがぼんやり感じている経験知を、AI?機械学習を用いて可視化し、売買条件として最適化して提示してくれる魅力的なシステム。加えて、経験知からはマーケットが平常に見えているときでさえも、実は変動があるのだということを気付かせてくれることも。市場を見る感覚の精度を上げる上でも有効です」と太鼓判を押しました。

DSC_0043.JPG システムの利点を紹介する常陽銀行市場金融部の川又主任調査役(中央)と飯島部長(左)

 さらに、機械学習を専門とする研究室との共同研究が、常陽銀行のメンバーのデジタルスキル向上にもつながっていると言います。「パッケージングされたソフトウェアの納品ではなく、学生のみなさんからプログラムコードを受け取るので、自分でPythonをインストールしてコードを実行しないとなりません。それまでプログラミングに触れたことはなかったので、今回の取組みが、基礎から勉強するきっかけになりました」(川又さん)。

 言うまでもなく、学生たちにとっても多くの学びがありました。発表会に同席したM2の圷智大さんは、「共同研究という機会がないと、研究室に閉じこもってただ研究をやるだけになってしまいます。市場金融部のプロの方から見た改良案や、自分たちからの『こういう仕組みを付けられたら』という提案を議論しながら研究?開発ができるというのは、大変ためになりました」と振り返ります。
 また、同じくM2の織田望夢さんも、「共同研究を通じて、僕らの研究していることがビジネスシーンや実務でどう使われているかを学ぶことができましたし、企業の方と同じ目標をもってひとつのものを作るというのも貴重な経験になりました」と話しました。今回の共同研究では、システムの開発だけでなく、複数の学術論文や学会発表の成果にもつながっており、大学院生たちもこれから修士論文の仕上げに取り組んでいきます。

 なお、この発表会は、常陽銀行と茨城大学の共同による記者懇談会という形で実施されました。懇談会では、この共同研究に留まらず、両者の包括的な連携の取組みの展望についても触れられました。

 直近でも、地域未来共創学環のコーオプ教育や、大学院人文社会科学研究科で来年4月から始まる「ダイバーシティ地域共創教育プログラム」において、常陽銀行の協力による現場実習の機会が予定されています。また、茨城大学が今年から参加している大学発スタートアップ促進のためのプラットフォーム「GTIE」には、常陽銀行も参画機関として名を連ねています。
 こうした近況を踏まえ、茨城大学の倉本繁副学長/研究?産学官連携機構長は、「これまで個別の取組みで終わってしまっていたものもあったが、今後は両方の代表が揃う定期的な会合の開催など、コミュニケーションを密にして関係強化を図っていければ」と呼びかけていました。

常陽銀行と茨城大学の共同による記者懇談会

(取材?構成:茨城大学広報?アウトリーチ支援室)